神様ご光臨

第七話 夏休みはハプニング3

 しのぶ子はゆいるに顔を真っ赤にして謝った。
「ごめん。ゆいる。子松がゆいるのことばかり言うのが気に入らなかったの。なんでもゆいるが一番であたしは一番下だったから・・・」
「そんなことない。子松先生はいつだってしのぶ子を大事に思っていたよ。あんなにくだけて話すんだもの。きっと子松先生はしのぶ子が好きだってずっと思っていた」
 その言葉を受けてしのぶ子は目を見張る。
「わかってなかったのはあたしだけ・・・ってこと?」
 さぁ、とゆいるは答える。
「しのぶ子と子松先生のことは誰も知らないと思うけれど私にはよくわかった。私にも好きな人いるから・・・」
「やなぎね」
 しのぶ子が即答してゆいるは真っ赤になる。
「丈君には言わないで」
「わかってる。ゆいるに心の準備ができたときにゆいるから言えばいいよ。ほんとにごめん。御先使いを親友に向けるだなんて、どうかしていたよ」
「ううん。しのぶ子必死だったんだよ。好きな人のためには誰だって変わるんだよ。きっと・・・・」
 ゆいるは静かに言う。その静かさにしのぶ子は申し訳なさそうな顔をする。
「大丈夫。私たちの友情はこれぐらいで途切れるものじゃないでしょう? 心の友なんだから」
「そうね。ゆいる。あ、今日の晩はいいチャンスかもしれないわよ」
「チャンス?」
「そう」
 しのぶ子はそう言ってにやりと笑った。

 しのぶ子が言っていたことってこれなんだ。ゆいるは戦々恐々としてくじをひいた。夜は夏におなじみの怪談である。肝試しをこれからするのだ。とくべつに幽霊がでてくるわけではない。だが真っ暗な道を二人で行って帰ってくるのだ。石をひとつもっておいて帰ってくる。ごく単純なことだが玉藻前を見ているゆいるだ。幽霊に会うかもとびくびくしていた。
 子松がかしゃかしゃとくじをいれた箱をゆさぶる。
「じゃぁ。栄誉ある一番目をゆいる君へあげよう」
 にやりと笑って子松は箱をゆいるに差し出した。
「え? 私ですか?」
 そういいながら恐る恐るくじを引く。
「いや〜。最後なんて・・・・」
 ゆいるはおきだしているしのぶ子にすがりつく。
「よしよし。この際やなぎと一緒だったらいいのにねぇ」
「しのぶ子!」
 ゆいるはしのぶ子の軽い口にガムテープを張りたくなった。
「わかってるって。卒業するまでに決着漬けなよ。あたしみたいになったらだめだよ」
「うん」
「ゆいるちゃん。一緒みたいだよ」
 女二人で秘め事を話していたところへ丈が話をつっこんできた。
「やっ、やなぎ〜。話しかけるときはちゃんと話しかけてといってるでしょー。いきなりだとゆいるもあたしも驚くじゃないの!」
「ごめん。ごめん」
 あいかわらずのテンポで丈は謝る。
「じゃぁ、行ってきます」
 松島が関口と一緒に行きだす。
「あの二人もいい感じだよね・・・」
 ゆいるがぼそっとつぶやく。
「ゆいる。あなた。全員のキューピッド役勤めるつもり?」
「キューピッドって?」
「ああ。もう、鈍感ね。松島先輩は関口先輩を好きなのよ」
「ええ〜!?」
「声が大きい」
「あ。ごめん」
 声を小さくしてゆいるは謝る。
「意外だったから。似合ってるとは思っていたけれど。・・・まさか田中先輩は丈君と?」
 恐る恐るしのぶ子にたずねる。
「まぁね。でも本気かどうかはわからないわよ。なんてったって毛色がちょっと違うからねぇ」
 はぁ、とため息をしのぶ子がつく。
「丈君の危機だわ・・・」
 真剣な調子で言うゆいるを見てしのぶ子が笑う。
「だったらがんばって守ってあげたら。タマをライオンにしたんだから」
「え? ゆいるちゃんタマをライオンにしたの?」
 またも突然丈が会話に入り込んできた。
「だからねー。やなぎー。会話に入ってくるときはそれなりに入り方があるでしょう? いきなり入らないの」
「ごめん」
 はぁ、としのぶ子はため息をつく。
 順番に肝試しが進んでいく。後から引いたしのぶ子は田中と一緒になった。本来なら子松と一緒がいいだろうが、今、子松との仲を知られることほど困ることはない。いい隠れ蓑だ。思いを告白した子松はやや残念そうだったが。これも運命である。おとなしくしのぶ子は田中と出て行った。
すぐに松島たちが帰ってきた。関口は縮み上がっている。
「なさけないわね。もう」
 松島はぷりぷりと憤慨している。
「だって。松島さんー。あんな怖い目にあうのは一年ぶりですよー」
 関口が情けない声を上げる。
「あんなのがどこがいいのかしらね」
 ぼそりとしのぶ子はいうと田中と出て行った。ほどなくしてしのぶ子たちは戻ってきた。元気だ。
「何も見なかった?」
 ゆいるはこわごわしのぶ子にたずねる。
「当たり前よ。たんなる暗い道だよ。田中先輩とおしゃべりして帰ってきちゃったわよ」
 ルンルンと楽しそうに鼻歌を歌っている。
 そんな簡単なものなんだろうか・・・。ゆいるの心に希望がともる。
「さぁ。ゆいる君。やなぎと一緒に行ってきたまえ」
「は・・・はい」
 ゆいるは丈を見ると一緒に歩き出した。
 みんながいたところからの明かりがだんだん消えてく。行き先はペンライトのみ明るくされてほとんど回りはわからない。
「怖かったら服をもっていたらいいよ」
 のほほんと丈が言う。お言葉に甘えてゆいるは服のはしをつかませてもらった。
 歩くごとにだんだん暗くなる。
「まだ? まだ石を置かないの?」
「もうちょっとだよ。ゆいるちゃん」
 丈が安心させるように行ってゆいるの手をぽんぽんとたたいた。その暖かさに思わず心臓がばくばくしだす。怖いのかどきどきしているだけなのかわからない複雑な心境がゆいるのなかに生まれていく。
「あ。ついたみたい。石を置くよ」
「う・・・うん」
 丈がペンライトを置いて石を置く。そのとき、一斉にゆいるに人影が襲い掛かった。
「きゃぁっ」
「ゆいるちゃん!」
 丈が一瞬で御先使いを出した。黄金のヤタガラスにすでにメタモルフォーゼしている。
「おっと。やなぎ。早業だな」
 聞き覚えのある声がゆいるに聞こえてきた。
「せ・・・先生〜。驚かさないでくださいよ〜」
 ゆいるは腰が抜けそうになりながら子松に訴える。
「私だけではない。ほかのものにも文句を言ってほしいものだな」
 そこには丈とゆいる以外の部員が全員そろっていた。
「図りましたね?」
 むむ〜とゆいるの中から怒りが込みえ上げる。
「そりゃ。せっかくの新入り部員だ。丁重に扱わないと」
 子松が笑って言う。
「せっかく・・・」
「せっかく?」
 田中が問い返す。
「いいえっ。なんでもありませんっ。いこ。丈君」
 ゆいるは丈の腕を取るとどんどん元の道を歩き出した。
 せっかく告白しようと思ったのに・・・。
 ゆいるは憮然とした顔で丈と帰り道を歩く。その辺にまだいるかもしれないから大事な話はできない。
「どうしたの。ゆいるちゃん?」
 ぷりぷり怒っているゆいるをみて意外そうに丈が尋ねる。普段は明るいゆいるだ。めったに怒らない。そのゆいるが怒っているのを見るとさすがに丈もおかしいと思うのだった。
「なんでもない。先生にはあとでタマで報復するから」
 物騒なことを口にする。
「だめだよ。ゆいるちゃん。子松先生の御先使いは日本で一番とも言われるぐらいなんだよ。タマがライオンにメタモルフォーゼしたらしいけれどやられるのが先だよ」
 いつしか真摯な声で丈はゆいるに話す。ゆいるは声を押し殺していた。涙がぽとぽとおちる。丈とつないでいた手を離してゆいるはどんどん歩き出す。
「待って。ゆいるちゃん!」
 丈がゆいるの腕を再び取った。ペンライトがころんと落ちる。ペンライトに照らされたゆいるのほほには涙のあとがあった。
「泣いていたの? どうして?」
 丈にはこの事情がわからなかった。どうして肝試しぐらいでなくのだろうと。
「私は・・・」
 そう言ってゆいるは唇をかむ。ぽろぽろと涙がでる。
「私は丈君が好きなの。でもそれを言う前にあんなふうに脅かされて・・・。私はみんなのおもちゃじゃないわっ。禁断の外典ってなに? 私は私なのにいつの間にかみんな変な目で見てる。丈君だってそうでしょう?」
「ゆいるちゃん」
 真剣な丈の声にゆいるはどきりとした。その声には少し怒りがこもっていたからだ。
「僕はゆいるちゃんを変な目で見た覚えはないよ。ゆいるちゃんがそう思うなら勝手だけど。僕はゆいるちゃんを変な目で見ない。僕だってゆいるちゃんのこと好きだから・・・」
「でもそれは友達としてでしょ? 私は一人の女の子として好きになってほしかった。変な力なんて要らない。普通の女の子として生きて丈君に好かれたかった」
 ゆいるはかみ締めた唇をさらにぎゅっとかみしめる。丈の手がゆいるの両肩におかれる。唇と唇が重なった。
 ゆいるは驚愕して目を見開いた。
 唇を離して丈が言う。
「僕は一人の女の子としてゆいるちゃんが好きだ。恋人として付き合ってほしい」
「丈君っ」
 ゆいるは丈の腕の中に飛び込んでいた。
 嗚咽がもれる。
「泣かないで。僕はいつだってゆいるちゃんの味方だよ」
 丈のやさしい声がゆいるのとがった心を癒していく。
「私だって味方だ」
「子松っ」
 子松の声としのぶ子の声が聞こえて二人はばっと離れた。
「いまさら離れなくてもいい。二人はこれで結ばれたのだからな。結婚式にはよんでくれたまえ」
「そんなの十年早いでしょーがっ」
 いつもの二人の言い合いが始まる。ゆいるは涙を拭いた。くすくす笑う。
「何よー。自分の恋を放っておいて他人を笑ってる場合じゃないわよっ」
 しのぶ子が突っ込む。
「いいの。私には丈君もしのぶ子も子松先生もみんな大事だから」
 でも、とゆいるは言う。
「一番は丈君かな」
 目と目を合わせてゆいると丈は微笑みあう。
「はいはい。ご馳走様。子松。さっさと旅館に帰るわよ」
「しのぶ「子」。お前に命令されるいわれはないっ」
 文句を言いつつも子松はしのぶ子の後をついてく。田中や松島たちもぞろぞろ帰ってく。
「帰ろ」
 ゆいるは丈に手を差し出した。丈は素直にそのやわらかい手をにぎる。
「いい夏休みだね」
「うん」
 二人の若き恋人たちは夏の夜空を仰いで歩いていった。