神様ご光臨

 

光輝く神器

 

文芸部に集まった部員たちを見て子松は満足げにうなずく。

「ほかでもない。君たちを読んだのは伊勢ツアーの話についてだ」

「伊勢?」

ゆいるはぽかんとしている。

「伊勢神宮に行くことになった」

「なったって・・・。私たちの許可なしに?」

しのぶ子が突っ込む

「神宮って神道ですよね? 民俗学にはあわないのでは」

控えめに丈が言う。

「何を言う。今年は出雲、伊勢ともに式年遷宮だぞ。これを見ないでどうする」

「はぁい。先生出雲は?」

 田中が色っぽく問い返す。恋人のしのぶ子は魔の手に落ちないようにかばうように立ち上がる。

「しのぶ子大丈夫だから」

子松の声でしのぶ子はしぶしぶ座りなおす。

「出雲に関しては予算がない」

きっぱりはっきり子松が言う。

「自信持っていう言葉じゃないでしょ」

しのぶ子が相変わらず突っ込む。子松はそれを無視する。

「今週末だからな。用意しとけ」

ええーと反論の声を無視して子松はどうどうと部室を後にした。

はやくゆいるにはグリフォンをあやつってもらわないと。もしかしたら伊勢で何かおこるかもしれない。そんな感を持って子松は伊勢ツアーを企画したのだった。

親にはすでに了解済みだ。なんとかなってほしいと切に願う子松だった。

 

さて田舎町からことことゆられて数時間ようやく東京駅に着いた。

「先生〜。関口先輩が貧血起こしてます」

しのぶ子が子松に伝える。

 大丈夫?と松島が部長らしく面倒をみている。

「ほっとけどうせ田中がいじったんだろう」

 田中に視線が集中する。

「あらぁ、私なにもしてないわよぉ」

さすがは御先使いをへびにしてるだけのことはある。執拗なアプローチをかけていたようだ。

「ほら関口君もしっかりして。まだ新幹線に乗るのよ」

 うへーと言っていいのかわからないがうんざりとした表情を関口は浮かべる。

「そのあと近鉄だ」

「近鉄?」

ゆいるが不思議そうに問い返す。

「近畿鉄道の略称だ。関西ではこれを知らない人間はいない」

「あのぉ。私たち関西人じゃないんだけど・・・・」

しのぶ子が突っ込む。最近二人が相思相愛となってからはしのぶ子が子松につっこむ役を担っていた。とんでもないカップルに誰も近寄りたくないのだ。

「我々は何物でもなく田舎人だ。きにしなくてよい」

「田舎って・・・」

 ぽそっとゆいるが言葉をこぼす。もっとも実際田舎に住んでるのは転校してきたゆいるが体感している。

「先生。時間がせまってます。関口君をおぶって行ってください」

「なに? そんな・・・」

といいかけて松島のするどい視線にぐっと言葉を飲み込むとえいっと関口を背負った。

「みな。いざ京都へ行くぞ」

「伊勢じゃないの?」

「ばかしのぶ子。そこから近鉄だ。一泊二日の旅行というのを忘れてないか?」

 えーっとしのぶ子は声あげるがほかの者はどうでもいい早く座りたいという風体であった。

 

でホームでチケットを見た部員全員がブーイングをたれていた。自由席である。場合によれば座れない可能性がある。

「グリーン席がいい。グリーン席が」

「金出すか?」

「ないです」

馬鹿っぷるの会話にはみな無視である。じゃれあいを見慣れているので茶々をいれるとひどい目にあうのがわかってるからだ。ただでさえ子松は不良教師なのだ。表向き以外は。

「俺だって禁煙にがまんしてるんだ。自由席で何が悪い」

ぶつぶつ子松が言ってるとそこへ新幹線が入ってきた。

「やっと来た・・・」

普段はきりきりしている松島がどっと疲れた様子で言う。関口の貧血でそうとう気をもんだのだろう。田中から関口を守るのは松島しかいないのだ。ついこの間まで丈にからみついていた中はターゲットを変えて最近は関口を狙うようになっていた。こちらも馬鹿っぷるに化けかけない。

田中一人が余ることになる。かわいそうにとゆいるは心の中でつぶやいた。

「お。富士山が見えるぞ。しのぶ子」

ちゃっかり座っている子松がしのぶ子に告げる。子松しのぶ子、ゆいる丈、松島関口、田中というぐあいにカップルごとに座ることになった。相変わらず田中はイケメンを物色している。関口は放り出したままだ。関口はやっと貧血から復活して富士山を眺めている。なにやら松島と談笑していい感じだ。ゆいるは丈とほんわかとしている。ひとりはしゃいでいるのは子松のみだ。

「恥ずかしいから騒ぐのやめてください」

松島が席を超えて注意する。

「いいではないか。富士山なんてめったにみれないぞ。なぁしのぶ子」

「私はしーらない」

「おひ。しのぶ子!!」

とかなんとかいってる間に富士山は過ぎてしまった。あとは山の中とトンネルの山だ。

いつしかゆいるは夢の中に入っていった。

 

『ゆいる・・・ゆいる』

誰か読んでる。誰? ゆいるは周りを見渡した。深い森の中見回しても誰もいない。

だがたまが宙に浮かんでいた。

『たま?』

『ゆいるちゃん。天照大御神様が呼んでるよ』

『アマテラス・・・?』

『あれを受け取って』

『鏡?』

光り輝く丸い物体をゆいるは拾い上げる。だたすぐに霧散してしまった。

『たま?』

『はやく伊勢に行って。プレゼントを受け取って』

『プレゼント?』

 そこで突然ゆいるは起こされた。

「ゆいる。京都だよ」

「え?もうそんな時間なの?」

「うん。荷物は僕が持っていくよ」

「あ。ありがと」

ぽーっとしているゆいるだがいつにもまいてその傾向がひどい。

「何かあったの?」

「夢でたまにあったの」

「たまに?」

「早く伊勢に行ってって」

「おお。ゆいる君にはなにかあるようだ。早速行こう」

「まってください。休憩はないんですか?」

松島が厳しい声で聴く。というのもみな疲労の色を隠せないからだ。

「伊勢の帰りは一泊するから大丈夫だ」

「その元気どこから出てくるんですか?」

はぁと溜息ついて松島が問いかける。

「私はいつでも元気溌剌だ」

 はぁと松島はため息をついてこの暴走教師を止めるのをやめた。

京都から近鉄特急にのって数時間。伊勢についた。まずは外宮だ。

伊勢神宮は外宮内宮でなりたっている。内宮には天照大御神が祭られている。今年は式年遷宮で新しい宮が隣の土地に建設中だ。

「まず資料館だ」

 ええ〜と部員のブーイングに答えずさっさと子松は行く。

そこで式年遷宮のことを見聞きして情報を仕入れるのが目的だ。案外広い。映像をうつしている椅子で部員は見てるふりをしながら休憩していた。足がいたい。

パンフレットをみて丈は子松に尋ねる。

「この内宮の手前の森林館とか行くんですか?」

「これも予算の都合で割愛した。外宮に参拝したら内宮にいくぞ」

「はぁ」

としのぶ子はため息をつく。この教師は民俗学から飛び出て何をしたいのだろう。

「さぁ。このバスにのれば内宮だ。あと一息だ」

もうすでに部員は暴走教師についていくことをあきらめている。

ただゆいるだけが考え込んだ表情を見せている。何が起こるのか。いいことであってほしい。

そう思いながらゆいるはバスに乗り込んだ。

あいわらず赤くない鳥居をくぐって手を清める。そして参道を歩いていくと拝殿が見えてきた。

拝殿でみな厳かな雰囲気でお宮を参る。

その時ゆいるは光り輝くたまを見つけた。

「たま?」

 そっと声をかける。

『そうだよ。よく来たね。天照大御神様の鏡だよ』

いつしか丸い光り輝く鏡をたまはくわえていた。

『これで依童がもっと楽になるよ』

「依童が・・・?」

『いつでもボクをグリフォンに変えられる。でもね。しょっちゅうつかったらだめだよ。これは大事な鏡だから』

「うん」

ゆいるがうなずくとたまは霧散した。

「たま!!」

思わず大声を出して他の部員たちが不思議そうに見る。

「ゆいる?」

心配そうにしのぶ子が尋ねる。

「大丈夫。ホテルで話すね」

「わかった」

 ゆいるの大事な親友はその言葉で満足してお宮参りをすませて参道をまた歩き出した。

ゆいるの手には小さな丸い黄金の鏡が握られていた。まるで先ほど見た鏡を縮小した感じだ。鏡の後ろは花の模様をかたどった内行花文鏡だ。

「さー。宮を参った。その後は自由時間だ。思いっきりおかげ横丁とおはらい横丁を堪能しろ」

「関口先輩倒れそうですが・・・」

「ほっとけ。松島がなんとかする」

「勝手に決めつけないでください」

松島が講義するがすでに子松は消えていた。

「どこで集まればいいのかしら」

情けないとでも言わんばかりに松島がため息をつく。

「このメモによると四時ごろおかげ横丁の入口待つとあります」

松島には礼をつくすしのぶ子が告げる。

「そう。じゃみんな思ったところめぐりましょう。私は関口君をつれて休んでるわ」

そういうとベンチを探して松島と関口はいってしまった。

「ゆいる。一緒に回ろ、やなぎもいいわよ」

「って僕追加?」

情けなそうな声で言うとしのぶ子はあたりまえだと言わんばかりにうなずいた。

「当たり前じゃない。女の子のデートに入るやつはおまけじゃない」

「しのぶ子はひどいなぁ。ま。いいけど」

「ゆいるの手にぎっちゃだめよ」

「そんなのしないって」

 やや焦って丈が言う。

「あー。図星」

「違うって」

真っ赤になって丈は否定する。ゆいるもゆでダコのように顔が真っ赤だ。

「もう。ゆいるも丈もそういうのはよそでして」

けらけら笑いながらしのぶ子が言う。

「しのぶ子こそ子松先生と一緒じゃなくていいの?」

「うん。デートなんて卒業したらいくらでもできるんだから今のうちに青春しないとね」

「余裕・・・」

丈がつぶやく。

「何か言った」

耳ざとく聞いたしのぶ子が聞く。

「じゃ行くよ」

「うん」

 ゆいるは鏡をそっとポケットにしまってしのぶ子に手をひかれるまま歩き出した。

「わ。かわいい。猫ばっかり〜」

ある店に立ち寄るとそこは猫ばかり集めた店だった。さまざまな形の猫がいる。

「このストラップかわいい。ゆいるお揃いにしない?」

「うん。いいね。私も買う。でもしのぶ子子松先生にプレゼントはないの?」

「くどーい。あいつなら勝手に買って喜んでるわよ。それにさっき面白いもの見つけたし」

「面白いもの?」

「うん」

「そろそろ四時だよ。行かなきゃ」

丈が注意する。

「わかったちょっと一回だけ立ち寄らせてね」

しのぶ子が頼む。いいよと丈が気さくに答えて三人は歩き出した。

「これこれ。子松にぴったりじゃない?」

ある真珠屋で『ブタに真珠』と書かれたストラップをゆいると丈は見た。

「うわー。これ買うつもり?」

「うん。あいつこれそのものでしょ?」

「そうだけど・・・」

 仮にも恋人宣言されているのに贈っていいのだろうかとゆいると丈は悩んだ。その間にしのぶ子はさっさと支払いを終わり店から出てきた。

「いこ」

「あ・・・。うん」

待ち合わせ場所行くとそこには面妖なものを食べている子松がいた。

「小松。何食べてるのよ」

「伊勢うどんぱん」

その名前を聞いて一斉に部員から異議を唱える声が上がった。

「炭水化物に炭水化物いれてどーすんのよ」

「たまり醤油がきいいてておいしいぞ〜」

「おなか壊したらしらないからね」

しのぶ子が言う。

「そうですよ。いくらなんでもぱんとうどん一緒では体に悪いですよ」

ゆいるもいう。他の部員がうんうんとうなずく。

「子松先生。引率者は一人なんですから自重してください」

松島のきつい声が飛ぶ。

「ちぇ。こんなにおいしーのに」

「さぁ次はどこへ行くんですか? さっさと休養ください」

「はひはひ。ほへるへいくぞ」

もぞもぞ伊勢うどんぱんを食べながら子松が言う。

関口が今日初めて顔色をよくした。

「関口、田中と同室だ。悪く思わないでくれ」

「関口君!」

 ふらぁっと倒れかけた関口を松島が支える。

「先生の頭はどんなセンスしてるんですか。今すぐ部屋を変えてください」

「いや。柳田と一緒だからましだ」

「ましという程度ですまなかったらその首もらいますからね」

 きっと睨みつけられて子松は首をひっこめたのであった。