神様ご光臨

第十二話 共鳴する三種の神器

 

伊勢ツアーも無事終わり、そろそろ受験シーズンに差し掛かるころ子松はまた部員に招集をかけた。

「今度は何ですか?」

もうお手上げな子松の暴走に松島がため息をつく。

「熱田神宮に行くぞ」

「秋に伊勢神宮に行ったばかりじゃないですか」

またも松島がつっこむ。

「それとこれは別の話だ。我々には使命がある。これはその通過点だ」

「神道と民俗学にどんな関係が・・・」

ひ弱な声で関口が口をはさむ。

「欠席の了解はすべてとってある。明日の朝五時、駅前に泊りの用意してくるように。一同散会!」

いうだけ言って子松は何もなかったように職員室へ戻っていった。

「なんなの。あの無責任な話は・・・」

松島がぷりぷり怒っていう。その松島を関口はそっと見ていた。せつない片思いである。田中は今日も丈を狙っていた。蛇が丈にからみつく。

「今度こそ。私のものにして見せるわぁ」

「田中君!」

松島がきつく田中をたしなめるが、一向に聞いていない。マングースを交わし今度は関口にからみつく。

言葉の出ない関口である。マングースがすぐさま関口のもとに行く。それでも田中の遊びは終わらない。頭の痛い松島である。

その中で困ったような表情をしてゆいるは立ち尽くしていた。

「どうしたの?」

しのぶ子がゆいるの顔を覗き込む。ゆいるが一回瞬きするとその表情は消えていた。

「もう〜。やせがまんしないの」

 しのぶ子はさきほど何とも言えない表情をしていたゆいるのほほをつつく。

「風船じゃないって。しのぶ子」

 ゆいるはしのぶ子の優しさに救いを見出していた。にっこり笑う。鏡の話はホテルで簡単に話した。それを子松に話したかはしらないが他のメンバーには秘密だった。だが心の中では自分の持つ鏡の意味合いに不安を持っていた。恐怖が常にあった。グリフォンを出すということは戦うということだ。一人で戦えるか心配だった。でも誰も傷つけたくなかった。自分一人でことが収まるのならそれでよかった。よけいな心配はさせたくなかった。

「しのぶ子、依童しよ」

ゆいるはしのぶ子の手を引くと山の人生の背表紙をひっぱった。

 

翌日である。眠たい目をこすって部員は子松を待っていた。もう十分以上たっている。三十分過ぎ、部員がイライラし始めたころ子松は姿を現した。

「遅い! 子松」

 しのぶ子が一同の怒りを代表してぶつける。

「悪い。悪い。スマホの目覚ましが止まっていた」

「目覚まし時計で起きてください」

 松島がつっこむ。

「今度百均で買ってくる。じゃ、電車に乗るぞ。切符渡すぞー」

「電車行っちゃってない?」

しのぶ子が言う。

「一日乗車券だから大丈夫だ」

今やIC時代だが、このど田舎にそんなものはなかった。知っているとすれば、ゆいるただ一人だろう。

一同は伊勢同様、各停にゆられて熱田を目指す。何度も乗り継いでやっと神宮に着く。

今回は名古屋である。伊勢よりは近い。そこに救いを見出している部員たちであった。

一人元気なのは子松だけである。

「どこからそんな元気が出るのよ」

 しのぶ子がぶつぶつつぶやく。

「なにか言ったか? しのぶ『子』君」

 聞こえていたのだろう。あえて「子」にアクセントをつけていた。そんな子松が頼もしいやら不満やらでしのぶ子は複雑である。

あ、とゆいるが小さく声をあげた。

「ゆいる?」

 丈がやさしく聞く。

「熱田神宮って動物の散歩もできるんだ」

 散歩できるかはどうか知らないが特別動物の入場の禁止の立て看板はなかった。伊勢とは違う雰囲気である。フレンドリーな熱田神宮に一同は一同ほっとしたものがあった。

「たしかここって草薙の剣があるんだよね?」

伊勢のホテルでゆいるの鏡を見ていたしのぶ子は丈とゆいるだけに伝わるひそひそ声で伝える。

「うん。それでなのかな? ここに来たのは」

 ゆいるが不思議そうにつぶやく。内心はほかのメンバーを何かに巻き込まないかと心配だったがこんな中で話しても意味はない。事態が好転するのをひたすらゆいるは願っていた。砂利道を一行は歩く。横には長年熱田神宮と一緒に時を経だった大木がずらりと並ぶ。神聖な空気が皆を包んだ。

やがててくてく歩いていくと正宮が見えてきた。丈の背後から依童のハトが八咫烏に姿を変えて正宮目指して一直線に飛んでいく。拝礼が終わると八咫烏は戻ってきて丈の掌に爪楊枝ぐらいの剣をぽとりを落とした。そして八咫烏は霧散した。となりでまだ祈っているゆいるの横顔をみると意を決したかのように丈はその剣をポケットの中にしまった。

拝礼が終わって帰途につくゆいる達以外のメンバー、すなわち三年生組はきつねにつままれたようだった。何のための拝礼だったのだろうか。丈とゆいるの表情が硬いのをしのぶ子は見つけていた。

そんないろいろな感情が一行の真上に飛び交う中、おいしそうな匂いが漂ってきた。

「お?! 宮きしめんだ。食べていかんか?」

じじぃめいた口調で子松が言う。

「宮きしめん?」

関口がじーっと店を見つめる。珍しい姿だ。

「お? 関口見る目あるな。あんかけがうまいぞ。私のおごりだ。好きなものを食べ給え」

「はぁい。田中はぁ。天ぷらきしめんにしますぅ」

「やりぃ。おごりだ。しのぶ子あんかけ行きまーす」 

 ゆいるも・・・、としのぶ子はひっぱる。もれなく丈がついてきた。一同は人心地ついて昼食へあり付いたのだった。

そしてやっとのことでたどり着いたホテルのロビーで一同は子松に振り回された疲れを癒していた。明日には帰れる。あいかわらずの弾丸ツアーにはさすがに疲れていた。バスだろうが各停だろうが我が家が一番と痛感した文芸部一同であった。

 

その熱田弾丸ツアーから帰って数日何もなかった。ただ、ゆいると丈の間がぎくしゃくしていたのは松島たちも感じていた。

 ゆいるは依童室から出て部室を出るとすぐそこの階段に丈が座っているのを見つけた。なにかをペン回ししている。ゆいるは迷ったが声をかけることにした。声が緊張する。

「丈君。もしかして熱田神宮で何かなかった?」

 ゆいるの声に丈ははっと顔を上げた。

「ゆいるは伊勢だったよね?」

 うん、と言ってゆいるは丈の横に腰掛ける。

「私はこれ。ちいさな鏡をたまからもらったの」

そっか、と丈はつぶやく。

「僕はただ八咫烏からもらっただけなんだ。なんのメッセージもなかった」

さきほどまでペン回ししていた剣を見せる。すると二つの神器共鳴を始めた。

「わわ・・・」

 二人ともあわてて両手で隠そうとするが指の隙間から光が漏れ出る。

「二人してなに悪巧みしてるーんだ」

 しのぶ子が二人の頭をぱこぱこ叩いて顔を覗き込む。

「悪巧みなんて・・・」

 ゆいるがおろおろする。

「見せてみなさい。見せて」

 しのぶ子が二人の手をこじあける。

「鏡と・・・剣?! って三種の神器? 勾玉ないじゃないの。ほしいなー。いいなー。いいなー」

「おもちゃじゃないんだけど・・・。しのぶ子」

 あきれた声でゆいるが言葉を発する。

「勾玉ってどこにあるの?」

「さぁ?」

「さー?」

 ゆいると丈の声がはもる。

「さぁ・・・って」

 今度はしのぶ子があきれる番である。

「って俺の掌の中だよ〜ん」

 いつの間に来ていたのか、子松がしのぶ子の頭を机にしてしのぶ子の目の前に勾玉をぶら下げる。

「って子松?!」

 振り返ってしのぶ子が子松の手にぶら下がっている勾玉を見る。

「俺が勾玉の持ち主だ。やるよ。しのぶ子に」

 しのぶ子の掌に勾玉をぽとりと落とす。

「勾玉ってヒスイじゃないの?」

 その勾玉は緋色だった。ヒスイは緑色だ。

「そうだ。姫川のヒスイだ。置いてあったのは石上神社だ。俺達は命の勾玉と呼んでいた」

「命の勾玉・・・」

 三人はじっと勾玉を見つめる。三つの神器はゆらゆらと共鳴を始める。

「それで私たちを神宮に・・・」

「俺はただ持ち主に神器を渡す役割を果たしただけだ。前の持ち主はいないからな」

「いないって・・・」

 ゆいるが言葉を詰まらせる。

「俺と一緒にいない時をねらってか亡くなった。事故かなにかもわからない」

 悔しさをにじませて子松は言う。

 だから、と子松は言葉を強める。

「死ぬな。三人とも生きて帰れ」

「って私たちを忘れていないですよね?」

 子松が振り向くとその視線の先には松島たちがいた。松島の仁王たちが似合っていた。

「先輩たちはもう引退してもいいし・・・受験もあるのに・・・」

ゆいるが言うと、松島が首を振る。

「受験なんてどーでもいいわよ。一浪して入るから。ここまで来てのけものにされちゃ困るわ。悪しきモノを倒す戦いに私たちにもいれて頂戴」

「先輩!」

 ゆいるはうれし涙をそっと拭くと松島の胸に飛び込む。

「いいのー? 柳。ゆいるを取られちゃったじゃないの」

「とられてないよ。ゆいるは僕のものだからね」

 おおーっと、しのぶ子は派手に騒ぐとちろん、と子松を見る。

「おひ。俺もしのぶ子の胸に飛び込めっていうのか?」

「なわけじゃないでしょ。発言。発言」

 恥ずかしいやつだとかぶつぶつ言うとこほん、と子松は声を整える。

「しのぶ子には俺の宝物やったからお手付き」

「いや〜ん。子松ったらぁ」

田中の蛇が踊る。うるさいと田中の蛇を払いのける。

「はい。依童室に戻る。話はそれからだ」

パンパン、と手を叩くと一同はぞろぞろと地下室へ降りて行った。

いまだ文芸部には平和な風が漂っていた。