未来警察サムライ参上!

2004/08/25

時は戦国時代。本来であればあったはずの本能寺の変。しかし、この世界では起きることはなかった。それから歴史はなんどとなく変えられていった。そんな時代がつむぎだした未来の世界の出来事である。

「エヴァちゃん。お茶」
 一人の男が気軽に要求する。
「ったくもう。女は茶を汲むことしかできないと思っているのかしら?」
 小さな声でぶつぶつ言う。が、いざ小さな台所に行くとそんなわずらわしさも消えた。やはり自分は女の子なんだな、と苦笑いする。もっとも女の子というには年をとっていたが。つらつら考えながら手を動かす。あっというまにそれぞれの好みのものを作っている。本の半年ぐらいに配属されたばかりである。お茶汲みは得意であった。どこの部署でもその仕事しかもらえなかったからだ。30世紀になってまで男女平等でないとは・・・。エヴァ、ことエヴァンジェリンは小さくため息をつくと明るい顔でお茶を配りに行った。
「どうぞ」
 エヴァはにこやかにカップを渡す。先ほどため息をついていたことなどきれいさっぱり忘れている。この楽天気質がエヴァを支えてきたのだろう。
「うーん。エヴァちゃんのお茶はうまい」
 課内きってのハンサムボーイに言われてエヴァは心の中でガッツポーズを出す。
 やり! 今日で記録また更新ね。
 配属された頃は勝手が違い、というかここが規制のゆるい部署だっただめ何をするべきかわからずくらげのようにうろうろ動き回ってきた。が、今では茶くみやらコピー取りなど何かをしていられるようになった。
 ああ、あたしもサムライになりたい。
 エヴァの唯一の願いである。
 警視庁武士課というのがある。別に半月そりをしているわけでもないしちょんまげを結っているわけではない。しかし、基本的に変わり者の行き場である。超心理学を学んだもの、カード当て100パーセント外れたセンシティブ、毎夜金縛りにあってもそのまま寝てしまうつわものぞろいだ。この課で要求されることはたったひとつ。現実で解決できなかった迷宮入りの事件を解決すること。それもオカルトという分野だ。彼らは畏敬の念を持たれてか、からかいの言葉なのかサムライと呼ばれていた。
 サムライに密かにあこがれていたオカルト少女はいつのまにか大人になって念願どおりの配属になった。どんなに叱られようとエヴァは満面の笑みで答えてしまうのだった。
 それでも不満に思うこともある。事件がまったく起きない。それはそれで平和の象徴だが、せっかく配属されたのに何もできないのはつらい。課長以下、部下達はのんびり過ごしている。課長は昼行灯と呼ばれるぐらいだらだらした人間だが、その昔は切れものだったらしい。その部下も課長にならってだらだらしている。しかも出番がないほうを喜んでいる節がある。エヴァ一人がきりきりしているだけなのだ。
 と、そこに一本の通信が入った。
「A-3で落ち武者が暴れている。出動お願いします」
「よっしゃ!」
 通信を聞きおわらないか終わるかの内に、体躯が大きいオオタが答える。
「先走るなよ」
 頭脳派のリチャードが言う。彼は課内きってのブレーンである。もっとも切れ者だった課長をのぞいてだ。
 ぞろぞろとサムライが出て行く。それにまぎれてエヴァもついていこうとしたが叱責の声がかかった。
「電話番は待っていろ」
 リチャードが流暢な日本語で話す。もっともこの30世紀には世界共通語があるのだが、自国にいるものは古き言語が受け入れられている。
 郷に入っては郷にならえ、というところだろうか。
「じゃ・・・いいけど」
 剣呑な色を瞳に移す。その言葉に全員が押し黙った。自分の前で悪魔撃退の行動をとる奴もいる。
「失礼ね。まだ何もしていないわよ」
「飛ばすな、壊すな、暴れるな」
 評語のような言葉を同期のルークが言う。
 だが、その言葉がより一層墓穴を掘ったらしい。ふんとそっぽをむく。頑固なエヴァには誰も負けを認めざるをない。
「わかった」
 とエヴァの破壊力をたびたび経験している課長がしかたないな、といわんばかりに言う。
「ただし、一つ条件がある。モノを壊すな。壊せば損壊容疑で書類送検だぞ」
「わかりました」
 いささか自分の壊し性質に自信は持てないものの、せっかくのチャンスは無駄にたくない。
「ほんとにできるのやら」
 となりにいたルークのつぶやきにエヴァはルークの足を踏んだ。
「う、ぎゃっ」
「どうかしたのか?」
 オオタが尋ねる。
「口は災いのものってことだな」
 チャールズはすました顔でブースを出ていた。
 ロッカールームでみな戦闘用服を着る。とは言っても着物ではない。非常に軽い防具服だ。もともとこの服はいざというときのために武士課にて配布されている服であるが、エヴァのものはない。まさか電話番が前線に行くとは誰も行くとは思っていないだろう。
 そもそも課内に女っけがないと抗議していたところにエヴァが配属されたのだ。
 ロッカールームから出てきたチャールズが予備のレイガンとビームサーバーを渡す。
 レイガンはレイザー光線の量を調節して撃つものである。ビームサーバとはサムライらしく、刀のような役目をしていた。スイッチを押すと光の刀身が現れる。これらの武器がサムライたちのサムライといわれる由縁でもある。
「いくぞ」
 オオタの馬鹿でかい声にみなついていく。エヴァもしっかりとついていく。以前、行こうとしても許さされずその報復にいろいろやってしまったのである。それ以来サムライ達は戦々恐々なのだ。あのサムライたちがこんな娘に恐れをなすとは・・・。真実を知ればみな笑うだろう。
 それぞれ別れてパトカーに乗る。
乗りながらサムライ回線とでも言うべき特別回線でオオタがルークに尋ねる。ルークは透視を得意とする。
「連絡どおりA-3のどまんなかみたいですね」
「やばいな」
 とチャールズがつぶやく。
「あそこはショッピング通りだ。パニックになっていなければいいが・・・」
「確かにそれは困るわね」
 エヴァもその言葉を聞いてつぶやくと押し黙った。
「ま、なった時はなった時だ。お前さんにでも力を借りよう」
 ほれたはれたの台詞ではないがその言葉は妙にエヴァの心を高揚させた。
 でも単なる足手まといになったらどうしよう?
 不安が横切る。その頭をリチャードはぽんぽんとたたいた。
 この人には負けるな。エヴァはついそう思ってしまう。彼は今なにを思っているのだろう? そんなことを感じさせる手の暖かさだった。
 目的地に近づいてくると反対方向から人々が逃げるように走っていく。
 停止テープを張ってあるところまでいくとエヴァはパトカーから降りた。
 チャールズが身分証明書を見せる。
 すぐに中に入る。何メートルか進むとそこは死体が横たわっていた。むごい傷跡。
 エヴァは思わず眼を背けた。
「逃げるなら今のうちだぞ」
 チャールズがからかうように言ってエヴァは怒った。
「そんな冗談やめてよ。あたしは今、サムライなんだから!」
「だったらそれにふさわしい態度をとれ」
 固い口調でリチャードが言う。これから戦争がはじまるのだ。規模は小さいがそれに近い。殺しあうのだ。生き残ったほうが勝利を収める。その考えにエヴァはとまどった。自分が描いていたのはもっと崇高なサムライだった。だが、現実は違う。どろどろとした関係の中に存在しているのだと。それでも今はサムライの一員なのだ。ふさわしい行動をとりたかった。
 落ち武者と日本では言うが、世界各国で無念の死を遂げたものたちの反乱が始まっていた。外国ではその時の兵士がでてきたり、虐殺されたものが現れたりしていた。まるで人類の生存を否定するかのように人々を虐殺していた。
 足が少しずつ震えてくる。前に歩くのもやっとというかんじだ。
「ぼやっとしてるな。行くぞ」
 血気盛んなオオタが言う。リチャードもルークも進む。
 落ち武者はそこにいた。まるで獲物を探すようにらんらんと目だけが光っている。
 オオタたちが落ち武者に向かっていく。あっというまに数対の落ち武者が倒れる。倒れたそばからそれは煙となって天に昇っていく。
「せめて自分の身は自分で守れ!」
 チャールズはそういい残すとまた落ち武者に向かっていった。
 レイガンを取り出してトリガーを握り締める。パワーは最大にしてある。レイガンを持つ手がかたかたと震える。射撃訓練ならした。だが、落ち武者であろうと人であろうとそういったものに向けた覚えはない。そんなエヴァは一体の落ち武者と目があってしまった。
あわてて背けたが遅かった。かしゃんかしゃんと鎧の音を立てて落ち武者は近づいてくる。
「いや、来ないで」
 じりじりとエヴァは後退する。落ち武者はふっと消えたかと思うと同時にエヴァの目の前に立っていた。刀が振り落とされる。
 ザシュ。
 刀は何かを切った。だが、エヴァンジェリンではない。閉じていたまぶたを開くとそこにはルークがいた。ルークは渾身の力でビームサーベルを落ち武者に突き刺していた。落ち武者が消える。ルークは肩を抑えてひざをついた。
 大丈夫かと尋ねようとして事の重大さに打ちのめされた。エヴァは混乱した頭でハンカチを差し出すと肩に押し当てる。が、それもみるみる内に血に染まっていく。
 どうしたらいいの? 混乱して頭は真っ白になる。
「エヴァ、ルークを連れてもどれ」
 オオタの命令にエヴァはとりあえずうなずくとルークの重い体をひきずるようにしてパトカーのところまで連れて行った。待機していた救急隊員に任せる。そこでエヴァは残るか戻るかの選択肢に阻まれた。ルークの傷は幸い防具のせいもあり軽かった。
 逡巡している間に声が頭の中に響いた。
"愚か者めが。この際体を貸せ"
「エヴァ?」
 ルークが不思議そうにエヴァを見る。そこにはいつもの愛らしいエヴァンジェリンの瞳はなかった。エヴァは不思議な瞳のままざっとまた舞い戻って言った。

「エヴァ。あれほど言ったのに何で戻ってきたんだ」
 落ち武者を相手にしながらリチャードが大声で叱る。
 が、そんな声も今のエヴァには通じなかった。ビームサーバを取り出して落ち武者の中に飛び込んでいく。止める前に行ってしまい、オオタもリチャードもあせる。
 だが、エヴァはひたすら戦っていた。まるで舞うように刀を躍らせる。時には激しく刀身をつきさす。あっけにとられている二人をよそ目にエヴァは自ら戦いに赴いていく。
「おどろくでない。小娘の体を借りているだけだ。さっさとやれ」
 大声でまるで男のような低い声でエヴァが言う。そこでオオタもリチャードも我に返ると戦いに身を投じる。
 エヴァの活躍のおかげというのかなんのおかげか分からぬうちに戦いは終わった。落ち武者が煙になって上っていく。この情景を見るたびにサムライ達は思う。恨みで出てきたのではなく、この世に残ってしまった想いを解消してほしくて出てきたのかもしれない、と・・・。
 そばでその情景を見ていたエヴァの体が急にかしいだ。リチャードが支える。
「大丈夫か?」
 オオタも心配そうである。
 それを横目にエヴァは笑う。
「ふふ。力を使いすぎたようだ。また一眠りするか」
 エヴァは低い声で言うとまぶたを閉じた。一瞬エヴァが死んだ気になってリチャードもオオタもエヴァの名前を連呼する。
 まぶたがゆっくりと開けられた。口から飛び出たのはいつもの女らしい声だった。
「あれ? ってどういうことなの」
 首筋まで真っ赤になって支えられているリチャードから思いっきり離れる。
 あたしはさっきルークを連れ帰って・・・それから・・・。
「それから? ・・・・・・覚えがないっ」
 エヴァは大いにあせる。
「一体何があったの。落ち武者は? ねぇ、あたしになにがあったの?」
 口早に質問を言うが、リチャードもオオタもにまにま笑って答えない。
「また新しい芸が一つ出来たってところだな」
 これから彼女、いや彼には世話になるかもしれないな。リチャードは心中で思う。エヴァの縁のものが助けてくれたのだろう。
 何かが始まる。そんな予感がリチャードの頭によぎる。

 そして未来のサムライストーリーはここからはじまる。

補足
この作品はリクエストのもとで書かれましたが相手と音信不通になり著作権はその方と私にあります。
どこかで見たなぁと思ったらその方にささげたものと思われます。盗作ではないのでご注意お願いします。